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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6390号 判決

原告

竹城悦子

ほか四名

被告

大西浩文

主文

一  被告は、原告竹城悦子に対し、金四四一万二七二〇円及び内金四〇一万二七二〇円に対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告増井伸子、原告竹城広康、原告竹城範光及び原告竹城智夫に対し、各金一一〇万三一八〇円及び内金一〇〇万三一八〇円に対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

(甲事件)

1  被告は、原告竹城悦子に対し、金一七一七万八八一〇円及び内金一五六一万七一〇〇円に対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告増井伸子、同竹城広康及び竹城範光に対し、各金四二九万四七〇二円及び内金三九〇万四二七五円に対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(乙事件)

被告は、原告竹城智夫に対し、金四二九万四七〇二円及び内金三九〇万四二七五円に対する平成三年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通貨物自動車が竹城德次(以下「德次」という。)を跳ねて死亡させた事故に関し、德次の遺族らが、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年七月六日午後一一時五四分ころ

(二) 場所 大阪府東大阪市若江東町一丁目一番五九番先の若江岩田交差点西詰め付近路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(大阪一一ひ六三六八、以下「被告車」という。)

(四) 態様 被告車の前方に立つていた德次を跳ねて死亡させたもの

2  責任原因

被告は、本件事故につき、民法七〇九条に基づき、損害賠償責任を負担する。

3  本件事故に至る経過、過失相殺

(一) 德次は、本件事故直前、被告運転の被告車左後部が自己が運転する普通乗用自動車(タクシー)の左後部座席ドアに当てられる物損事故を起されたが、被告が被告車で逃走したため、右タクシーで追跡し、本件現場の交差点で信号停止したので追い付き、右タクシーを降車して、被告車の前方に立つたところ、被告が被告車を発進させたために本件事故が発生した。

(二) 原告らは、德次が被告車の前面に立ち塞がるという危険な行為に及んだことにつき德次にも過失があつたことを認め、その過失割合を一割とする。

4  相続関係

原告竹城悦子は德次の妻、原告増井伸子、同竹城広康、同竹城範光、及び訴外竹城智夫(但し、同人のみ先妻訴外西川惠子との間の子)は德次の子である(甲一、二、乙一)。

5  損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険から三〇〇〇万円の支払いを受けた他、本件事故につき、被告の使用者もしくは被告車の運行供用者として訴えていたタイホー産業高山こと高斗栄との間で、利害関係人日本火災海上保険株式会社を参加させて和解をして損害金として七〇〇万円の支払いを受けた。

二  争点

損害(特に死亡慰謝料)

(原告らの主張)

被告は、本件現場交差点で被告車の前方に立ち塞がつた德次を認めながら被告車を発進させた上、その際、德次が被告車の前面にしがみついたのであるから、そのまま走行を継続すれば、德次を被告車直前に落下転倒させ、轢過して重傷を負わせるかもしれないことを認識しながら、敢えて走行を継続したため、德次を落下転倒させて轢過した上、約一三六〇メートル德次の身体を引きずつたことにより内臓挫滅による失血により死亡させたものであるから、右事故態様を考慮すれば、德次の死亡慰謝料は三〇〇〇万円が相当である。

(被告の主張)

本件事故は、被告が本件現場の交差点で被告車を発進させたところ、突然前方に德次が現れたので回避できずに衝突したものであるし、德次が被告車の前面にしがみついたことは全く知らず、したがつて、德次が振り落とされて死んでしまうなどということも全く予想していなかつたのであるから、德次を故意に殺害したものではない。

第三争点(損害)に対する判断

一  死亡慰謝料(主張額三〇〇〇万円) 二七〇〇万円

前記争いのない事実及び証拠(甲三、八ないし一八、乙五、六)に加え、被告自ら德次を跳ねてしばらく走行した後、ハンドルが右に取られたり、進みにくくなつたことに気付いていたことを自認していることを考慮すれば、被告は、飲酒運転中に起こした物損事故の発覚を恐れて逃走したばかりか、本件現場の交差点で追い付いた德次が被告車の前方に立ち塞がつたのを認めながら被告車を発進させたばかりか、その際、德次がやむなく被告車の前面にしがみついたのを認めていながら、そのまま走行を継続して德次を落下転倒させて轢過した上、約一三六〇メートル德次の身体を引きずつたことにより内臓挫滅による失血により死亡させたことは明らかであり、被告に德次殺害の未必の故意があつたものと認められるから、右事故態様を考慮すれば、德次の死亡慰謝料は二七〇〇万円が相当である。

二  逸失利益(主張額三六〇七万八〇〇〇円) 二一八二万八二六七円

德次は、本件事故当時(五七歳)、個人タクシーの運転手をしながら、メガネのファイブでもアルバイトをし、個人タクシーについては、本件事故前年の平成二年につき年収三二〇万四九三八円(平成二年分の所得税の確定申告書の所得金額)、アルバイトについては平成二年度の年収七二万円の合計三九二万四九三八円の収入を得ていたことが認められる(甲四ないし七、一九)。そうすると、德次は、本件事故により就労可能年数である六七歳まで一〇年間少なくとも右収入程度を失つたことが認められ、また、一家の支柱であつたことから生活費控除率を三〇パーセントとしてホフマン式計算法で中間利息を控除して逸失利益を算定すると、以下のとおり二一八二万八二六七円となる。

3,924,938×(1-0.3)×7.9449=21,828,267

三  葬儀費用(主張額一九六万円) 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては一二〇万円を認めるのが相当である。

四  以上の損害合計は、五〇〇二万八二六七円となるが、前記した原告ら自認の一割の過失相殺をし(なお、前記認定した事故態様に照らしても、右過失割合は相当なものと認められる。)、既払金三七〇〇万円を控除すると、八〇二万五四四〇円となる。

五  弁護士費用(主張額三一二万三四二〇円) 八〇万円

本件事案の内容、認容額等一切の事情を考慮すると、原告らの弁護士費用相当損害額は合計八〇万円(原告竹城悦子分四〇万円、その余の原告ら四名分各一〇万円)が相当である。

六  以上によれば、原告竹城悦子の請求は、金四四一万二七二〇円、その余の原告らの請求は、各金一一〇万三一八〇円、及び弁護士費用を除く内金原告竹城悦子につき四〇一万二七二〇円、その余の原告につき各一〇〇万三一八〇円に対する本件事故日である平成六年七月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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